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【芝生のバンディエラ】

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【サッカー選手から地方政治家へ】

元サッカー日本代表 森正明の書籍

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Talk.01 加藤 智晃氏 P1/4

芝生化に取り組む方との対談企画「芝生のバンディエラ」。
第1回目(全4ページ)のゲストは、神奈川県西地区を中心に活動されている
株式会社G-DESIGNの加藤智晃さん。森正明との対談トーク、ぜひご覧下さい!


Guest Profile ●加藤智晃(かとうともあき)
1968年小田原生まれの小田原育ち。工業高校1年生で電気工事士の資格を取得。それから37年間電気工事一筋とはいかず、20代前半はフリーターとなり多くの職を転々とする。東京ディズニーランドジャングルクルーズのアルバイト時代に現在の妻と出会い25歳で結婚。それを転機に電気工事業に復帰。28歳で独立。3男2女5人の子供に恵まれ、自身の母校でもある下府中小学校に子供達を通わせる。芝生化との出会いは、自身も所属をしていた地元のサッカーチームの役員やコーチを経験していた頃。ポット苗方式による芝生化(鳥取方式)と出会い、2009年下府中小学校5000㎡をJFAグリーンプロジェクトにより全面芝生化。以降、校庭・園庭・河川敷・公園など、低コスト粗放管理のできるB級芝生の普及拡大に尽力。2015年より社名を株式会社G-DESIGNと変更し、芝生にも関わる電気屋さんとして奮闘努力中。

■取材・文・ファシリテーター/すぎさきともかず
■取材協力/小田原市立下府中小学校
■取材日/2020年11月下旬 緊急事態宣言再発令前に実施


「芝生にも関わる電気屋さんとして」

 

―――今回は加藤さんが校庭芝生化を現在もサポートしている小田原市立下府中小学校にて、森さんとの対談取材させていただくことになりました。まず、お二人にとっての芝生化との関わり方ついてからお話を伺えればと思います。

森正明(以下、森)(対談司会兼ライターの)スギさんにはこれまでも伝えてきましたし、私のホームページでも開設当初から伝えてきてはいるのですが、スポーツでも政治でも活動で大事にしてきたのは三間(時間・空間・仲間)です。特に芝生というのは空間の部分でもありますし、環境整備のひとつだと思っています。その価値を伝えていくことが、政治の道に進んだ理由の一つですから。

―――それはプレーヤー・コーチの時から感じられていた部分ですか?

 選手時代はプレーで伝えることが第一でしたよね、自分のプレーで感動してもらうことであったり。コーチ時代は芝生と一緒で(選手の技術・考え方・姿勢といった)小さい芽を大きくして、(土台である基礎の)根をはって、しっかりとしたプレーヤーに導いていくことに喜びを持っていました。

―――地方政治の視点ですと、当然違ってくると思います。

 政治家には政党があって、各地域で望むものを議論して、実現に向けて着実に進んでいくわけですが、政党を超えて議員の仲間に理解をしてもらうことも必要ですよね。ただ、スポーツの世界を知っている日本の政治家は少ないですよ。海外ではアスリートが政治家になるケースも多いですが、神奈川県内でプロスポーツの現場を知っている政治家は自分1人。まずは議会の中でスポーツの重要性、環境整備の必要性を訴えて、理解してもらうことが前提にあります。スポーツの環境整備でいえば、少子化に向き合いながら教育・福祉・経済に目を向けて進めていくことが求められているし、大切なことだと思っています。とはいえ、地方議員の仕事というのは議会の中だけでなくて、地域の中で何かをやりたい人と団体や組織を繋げる機会をつくったり、人と人を繋いでいく役もあると思っているんですよ。特に自分はスポーツ出身ですから、現場がどのくらい環境整備を求めているのか、現場で熱心にやられている方も知っています。

―――まさに森さんにとって加藤さんは、その一人であると思います。電気関係のお仕事をされながら神奈川県西地区を中心に芝生化の活動をされていると(森さんからは)お聞きしていますが、芝生関係で所属されている組織はいくつもあるのですか。

加藤 智晃(以下、加藤) JFA(日本サッカー協会)グリーンプロジェクトのインストラクター、日本芝草学会の校庭芝生部会、鳥取方式サポートネットワークの会員など、芝生を広める活動は色々やってます。

―――森県議との関わりも、そうした芝生関係の繋がりだったのでしょうか?

加藤 森先生と距離が近くなったのは、サッカー教室のイベントをやっていただいた時じゃないかな? その後、2015年頃、神奈川県サッカー協会で芝生のプレゼンをさせていただいたんですよ。ちょうど神奈川県サッカー協会のグラウンド「かもめパーク」が出来た直後くらいに、「かもめパーク内の一部を芝生化したい」ということで理事会に呼んでいただいて、お話をさせていただく機会があったんです。当時、JFAグリーンプロジェクトを通して芝生化を何件かやった実績もありましたから、プレゼンの機会をいただきました。今もこうして交流させていただいているのも、そのプレゼンが森先生にしっかりと刺さったのかな、と(笑)。芝生のことをとても理解されている元プレーヤーでもありますから、話が合わないとか通じないとか、そういったことが何もないのはありがたいですよね。

 そうそう、小田原の守屋市長(当時は県議)からの要望で、この小学校でサッカー教室をやる機会があったんですよね。そこで知り合いになって、その後は加藤さんのお話通りのいきさつでしたね。色々な相談をさせていただく中で、芝生化に関する想いを共有できる間柄になっていきました。私自身、政治家になってから造園協会の方と幼稚園・小学校・養護学校をまわって、県立高校の芝生化に着手した経緯もあります。神奈川県立藤沢清流高等学校では用務員さんのご負担にならないよう、自動芝刈り機の導入を後押ししたり。2010年頃は画期的な取り組みだったんですよ。

加藤 僕は自動芝刈り機の代理店もやらせていただいているのですが、その当時に自動芝刈り機を取り入れたのは、かなり早いですよ。 校庭芝生化は政治が関わっていかないと進んでいかないことを、芝生に関わる人間たちは知っていますから本当にありがたいことですよね。自分の校庭芝生化の活動は一番下の底辺に位置する活動ですから、自分の意見や声を森先生にひろっていただけることは本当に大きいことだと思っているんです。問題の本質や現場の声を森先生は理解していただいていますから。

 やっぱりサッカーも芝生も人がやるもの。人の繋がりなくしては、グラウンドだって作れない。加藤さんは、県内各所でポット苗方式(大掛かりな工事をすることなくグラウンドを芝生化できるひとつの手法)で芝生化を進めていらっしゃいますけど、苗を植えて終わりではなく、水をまいたり、成長した芝生を刈ったり……。芝生のメンテナンスに加えてグラウンドのコンディションを見極めた上で運用アドバイスをしたりと、現場でも「ありがとう!」の言葉を頂いていると思いますよ。

加藤 子供からご高齢者の方まで、幅広い世代の方たちから感謝の言葉をたくさん頂きましたよね。凄く感じたのは、使っている皆さんの変化を感じたこと。土から芝生に変わることで、段々と変わっていく皆さんの姿をみて、芝生の凄さを肌で感じてしまったんですよ。

 

「校庭の芝生化は、品質ありきではないと思う」

 

―――環境作りの面白さを知ってしまった、ということでしょうか。

加藤 やっぱり、どんな形であれスポーツにおける環境作りって、大事なものだと思います。自分と芝生との関わりは、報酬を得るためではないですし、造園業やグランドキーパーといった職業からはじまったわけではありません。もちろん、芝生に関わる方々がしっかりと報酬を得る流れを、地域の中でも作っていかなければ仕事として続いていきませんから、最近は報酬を少しいただいて芝生化を行っています。その中の一つには、森先生との繋がりの中でやらせていただいた「平塚ふじみ園」もあります。

 もともと芝生化の相談に乗っていたタイミングで、加藤さんが手がけることになったのも何かの縁ですよね。救護施設「平塚ふじみ園」の関係者も大喜びですよ、本当。

加藤 嬉しいです、芝生の調子もずっと良いですよ。

 福祉関係の芝生化でしたけど、これまで私が関わってきた学校関係のケースも含めて、芝生化をする前は関係者の皆さんが不安に思うんですよ。毎回「必ず良い芝生になりますから待っていてください」と言ってはいるものの、変わっていく過程を言葉で伝えても、土のグラウンドから芝生に変わっていく景色は「イメージができません」と、返ってきます。関係者の皆さんの不安が喜びに変わるのは、芝生がびっしりと生えている光景を見た時。その変わる瞬間をみるのが自分は凄く好きです。

―――(芝生化前の現場での反応について)加藤さんは、いかがですか?

加藤 不安と同じくらい負担を感じていらっしゃると思います。自分は芝生に関わって10年以上になりますけど、一人で水まきや芝刈りをしたり、すべてやってました。それこそ、お手伝いをしてくれるボランティアの方たちが集まった週末に雨が降ったら、芝生管理の作業はできませんよね。とはいえ、芝生の手入れをしなければいけないタイミングですから、週明けの平日、自分の仕事の時間をつぶして、作業をしたりしていました。こうした事を色々な現場でやってきて……「これが負担なんだな」って、実感したんですよね。

―――先生達からすれば、やらければいけない仕事がある中での作業になってしまいますし。

加藤 学校の先生たちが放課後にやる仕組みでは到底広がっていかない、それが僕の実感です。じゃあ、どうすれば校庭の芝生化が進むのか、そのヒントになる事例が「平塚ふじみ園」で作ることができたと思いますね。平塚ふじみ園では、自動散水・自動芝刈りを使って、少しの費用を頂きながら、定期的な芝生の手入れをしています。現場にいる人たちの負担と不安の両方を解消しながら、細く長いお付き合いをしていくひとつのモデルです。

 ようするにポイントで芝生の維持管理に関する指導ができれば、現場の負担を少なくして維持はしていけるってことですよね。

加藤 そうなんです。芝生導入後の維持管理を全て受けてしまうと、現場が続けられなくなってしまう。とはいえ、外部に全てを委託するとメンテナンス費用がかかってしまう。それでは一歩も前に進まない。それが校庭緑化(芝生化)なんです。もちろん、東京都ではそうやって維持管理をしているケースもあるのですが、他の自治体が同じようにできるわけではないですからね。特に神奈川県は2002年日韓ワールドカップの後に横浜市が試みたものの、うまく進んでいかなかったこともあったので。

 造園協会であったり維持管理に関係する団体からすれば、当然、利益は求めますから、校庭の芝生化の進め方としてマッチしない地域もあると思います。維持管理のコスト面は確かに進まない理由のひとつ。一方、学校側で維持管理をやるとなっても、続くのは最初の頃だけで、芝生化を諦めてしまうケースも実際にはあるんですよ。

―――校庭の芝生化を一部トライアル的に進めてみたけれど、コストをかけずに現場で管理する方法がまだ確率されていない現状だということですかね。

 コンディション維持を甘くみられてしまう部分があると思います。芝生の使い方に関してルールや約束事が設けられていないと、せっかく芝生にしたのに時すでに遅しです。例えば、芝生が育っていく過程をみながら「根が生えるまでもう少し使用は待った方がいい」とか、芝生育成の経験がないと判断できないじゃないですか。校庭の芝生は観賞用ではないですから、専門家の人に維持管理のアドバイスをもらうことができないと、維持管理のコストを低く抑えることは難しいと思いますね。でも、逆に言えば、それが目指すところだと思います。一番大事なのは、ボランティアを含めた協力体制をどれだけ構築できるのか、という話だと思います。

加藤 平塚もそうだったんです。それこそ森先生が尽力された2002年日韓ワールドカップのキャンプでナイジェリア代表チームが来て、キャンプを機に平塚市内の小学校4~5校で、部分的ならがも芝生を配布することになった。湘南造園(株式会社)さんがサポートしながら、トライアル的に進める機会がありました。

―――機会はあっても維持する方法がなければ続いてくのは難しい……。

加藤 私は湘南造園さんから芝生のノウハウを色々教わりました。芝生のことを教えてくれる企業が地域にはあるわけですし、私のように学んだ技術は人を介して伝えていくこともできる。維持する方法が、地域ごとにみえてくると、変わってくるのかなと。

―――維持管理の低コスト化は現実的に難しいところもあるのでしょうか?

加藤 僕もJFAのグリーンプロジェクトに関わっているので、お世話になっているのですが、東京の新国立競技場などの芝生を管理している(株式会社)オフィスショウさんからは色々と勉強させていただいているんです。国内プロサッカーのみならず、最高峰のスポーツの舞台で求められる品質というのは、当然ながら高い。芝生を管理するエンジニア側からすれば、「品質=自分たちの評価」なのですから、例えば何週間は養生しないと何ヶ月の品質保証はできないという話に当然なってくるわけです。でも、僕は芝生との関わりがエンジニアの立場からスタートしているわけではないので、利用者目線で物事をみると、自分が住んでいる小田原地区の小学校では、ここまでのクオリティは必要ないんじゃないか、と思うんです。校庭の芝生化は、品質ありきではないと思うんですよ。

 Jリーグのピッチ(芝生)で求められる品質とは違って当然です。ミスマッチだったものをマッチさせていくことが必要なわけですけど、ある程度の品質も必要ですから、悩ましいところですね。

加藤 ユーザー側の理解があがっていけば、もっと良い芝生が維持できると思うんですよね。僕が問題だと思うのは、例えば河川敷のような芝生では芝刈り機を使って、行政もしっかりと維持しているわけです。A~Eまで芝生にランクがあったとして、河川敷の芝生のランクを一番下のEランクだと仮定して、JリーグのピッチレベルをAランクだとしたら、その間(あいだ)がないんです。最高のAと最低のEしかないんです。校庭の芝生は、その間に位置すると思います。維持管理の方法は、地域によって違ってもいいと思います。低コスト化すればできる、マンパワーがあればできる、といったように。校庭の芝生化で使用しているポット苗方式()は、プロの造園屋さん100人を集めるより、300人のボランティアを集めた方が早い。素人が300人集まったら、サッカーコート一面なんて半日で出来ちゃうんですから。

ポットの中で30日間ほど育てた芝生(ティフトン芝)を田植えの要領で、50cm間隔で植えるもので、2ヶ月ほどでその間隔が埋まり一面の緑の芝生になる方式

―――そんなに難しい人数というわけでもなさそうですね。選手・関係者含めて30人規模のクラブが10チーム集まったら、子供たちだけでもクリアできるわけですし。

加藤 そうなんですよ。だから、そういうイベントを毎年やってます。環境作りの面白さを子供たちだけでなく、保護者や地域の人にも感じてもらっています。