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【芝生のバンディエラ】

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【サッカー選手から地方政治家へ】

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Talk.01 加藤 智晃氏 P4/4

芝生化に取り組む方との対談企画「芝生のバンディエラ」。
第1回目(全4ページ)のゲストは、神奈川県西地区を中心に活動されている
株式会社G-DESIGNの加藤智晃さん。森正明との対談トーク、ぜひご覧下さい!


「ポット苗方式の特徴は、生き方そのもの」


―――芝生と同じで一つひとつの点であるポット苗が育ってくれないと、一面緑にはならない。

加藤 小さな苗を50センチ間隔で植えていくわけですけど、均等に太陽の光があたっているようで、あたっていない。均等に水がまかれているようで、まかれていない。また、一つひとつの苗が全部上に上に伸びたかがってしまうんです。でも、それは面にならないんですよね。自分だけが光合成できるように上に伸びればいいってもんじゃなくて、なんとか横につながっていこうと、一生懸命、土に根っこをはやしていく。そうすると、50センチ先に、同じように苦労をしている仲間を見つける(笑)。伸びていった枝っていうのは弱いんですよ。枝と枝が蒸散(じょうさん:植物の地上部から大気中へ水蒸気が放出される現象)して、早朝の時は葉っぱの裏に蓄えた水が地面に落ちて、それを根っこが吸って成長する。ようするに、苗同士で水や栄養分を補完しあいながら、もっと強くなろうって、一緒に根っこをつくっていくんですよ。

 ポット苗方式の特徴は、生き方そのもの。外からみただけでは分からないけど、(根っこでは)しっかりと支えあっていてね。

加藤 そうなんです! 僕は、それが地域で生きていく様にみえてしまったんです。地域や人って、こうやって面をつくって、繋がっていくんだなって。ですから、しっかりと地面で繋がっている芝生の上で行われる活動というのは、土のグラウンドでは得られない、桁違いに豊かな活動だと思うんです。得られる質の高さがまったく違いますから、絶対に必要なものだと思っています。ついつい大人は目から入ってしまうけれど、子供たちは何も言わなくても裸足になって走り回っている。そういう姿をみると、子供たちの感受性というものが、やはり答えだと思います。大人の方も裸足でこのグラウンドを歩いたり走ってくれれば、得られるものの違いは一発でわかるはずです。

―――言葉では伝えられない五感で感じられるものが、必ずあるわけですからね。

加藤 そうです、コロナ禍では絶対にこれが必要だと思います。森先生がおっしゃったように芝生は導入前にどれだけ苦労するかわからない、先が見えないわけですよ。今まさしくコロナ禍がいつまで続くのか、凄く苦労している中だからこそ、「こんなことをやってみよう、こういう環境をつくってみよう」って、チャレンジすることは絶対に必要だと思います。コロナ禍でみんなが求めたのは自然とか緑じゃないですか。学校の校庭が使えない、遠くに行けない、みんな近所の公園に行ってますよね。芝生のある公園なんて、各地域でどれだけの人が集まっているか……。もし一番近くの小学校の校庭が芝生だったら、週末に遠くには行けないけれど校庭でゴルフをしたり、ボール遊びができたり、違ってくると思いますよ。コロナ禍で出来ないことを数えたら、嫌という程あります。でも、みんなが楽しむ機会をつくっていくことは出来ると思うんですよ。僕は、これがウィズコロナだと思う。今だからこそ、ですよ。…………すみません、熱くなっちゃったですね(笑)。

――― みんなで場を作っていくこと、共有していくことって、凄く大事だと思います。

 加藤さんのような方が増えていくことが、地域にとって嬉しいことだと思いますよね。仕事や生活が基本だとは思いますが、同じベクトルを持った仲間を増やしていくことが、加藤さんにとってのモチベーションになってくれれば、凄く嬉しいです。今回の取材前、この学校の先生たちと話をさせていただいたのですが、加藤さんがいてくれていることに凄く感謝をしていて、これから継続していくことを地域と一緒になって考えていく思考がすでにある。それをどう作っていくのか、ですよね。それこそ1人の人間という点が線になって面になっていく。県の教育委員会や学校の先生たちが加藤さんと同じように熱い話をしていたかというと、現状は違っているので、場づくりの楽しさ・面白さ・喜びを共有していくことが必要なんだと私も感じました。

―――マインドの共有が本質ではないかと。

 そう。芝生って、太陽を浴びたいから上に上に伸びていくんですけど、それをカットしてあげて、下(根っこ)で繋がっていくように導いていくんですよね。それがティフトン芝生の特徴(面白さ)。例えば、スライディングをして芝生が傷ついても周りの芝生が助けてくれて、修正していくので、太陽と水と芝刈りが大事なんですよ。だから芝刈りっていうのは「下でつながれよ!」というグラウンドキーパーからのメッセージなんだよね(笑)。

加藤 本当にそうです。根っこです、根っこが大事なんですよ。

 だからこそ、共有できる仲間を増やしていくことが大事だと思うんですよ。第2・第3の加藤さんを生んでいくためにも、水面下の活動というか、それこそ芝生のような活動。教育の世界だって、この学校の先生たちは芝生の重要性や必要性を知っているわけですから、どんどん広がっていくと思うんですよ。色々な人たちの力がないと、やっぱり広がっていかないから。

―――湘南地域ならではの課題、例えば海に近い立地的なデメリットはあったりするのですか?

加藤 全然ないですね、逆に良いと言われてます。新国立競技場のグリーンキーパーをやられている(オフィスショウ代表)池田省治さんが、幕張にナショナルトレーニングセンターのピッチを作ったんですけど、僕らがやっているポット苗方式で作っているんです。管理もやられているので、お聞きしてみたんですよ。そうしたら「潮風はティフトン芝生にとってすごく良い」と。もちろん、育つ土壌がいくら良くても維持管理には技術も必要ですから、僕自身もまだまだ学んでいければ。

 プロの仕事から要点を引き出して、維持するための要点を地域に伝えて、あとはそれが実行できればいいわけだ。

加藤 その通りですね。

―――芝生にしたことでサッカー以外の関係者からも喜びの声はあがったのでしょうか。

加藤 面白いのは、芝生にして一番最初に喜んだのは体育館のインドア競技の人たちでした。

―――その理由としては?

加藤 体育館に砂埃が入ってこないから! 体育館のワックスが凄く効くようになったみたいです(笑)。砂塵がなくなったことは、近所の方も喜んでくれていますが、2次的な話でもあるので不思議な感じでした(笑)。後は、ラグビーの人たち喜んでいましたね。放課後にタグ・ラグビーをやっている子供たちの姿をみて、サッカー以外にも芝生をきっかけに広がっているんだなぁと。ただ、そこが大事だとは思っていないんです。特定のスポーツのために校庭の芝生化を進めているわけではなくて、「生活していくために緑は必要なんだ」という境地なんです。

 サッカー経験者だから芝生を進めているのではなくて、サッカー経験者は芝生の良さを凄く経験して体感しているという単純な話であって、特定のスポーツのために広めようとしているわけじゃないんだよね。サッカー出身だと勘違いされるけれど。

加藤 よく野球は内野が土だからって言う人もいるんですよ。そりゃ、ピッチャーとバッターが立つ所は土だと思いますよ。あれだけ同じ場所に人が立つんですから、芝生なんて根付かないです。でも、メジャーリーグの内野は芝生なわけです。内野が芝生なのは、より高いプレーを引き出すには、そういうステージが必要だという単純な話だと思うわけです。甲子園の内野が土だからといって、土じゃなきゃいけないわけじゃない。甲子園を手掛けている阪神園芸(株式会社)さんは、一年に一度、内野まで全部天然芝にして、アメリカンフットボールの公式戦をやっているんです。日本だって、広島・神戸・東北と、天然芝のグラウンドも増えていている。だから、野球がどうのとか、全然違うんです。


「コンクリートのステージでは世界記録も生まれない」


―――芝生なら思いっきり転べる、滑れるステージだからという単純な話。

加藤 それは子供たちも同じなんじゃないかなって。幼稚園・小学校の校庭は芝生があって当たり前という世の中を、これからは作っていかなきゃいけないんです。それだけ遅れていると思います。

 逆に現場を知っている加藤さんが思う、広がらない理由は、どこにあると思いますか?

加藤 やっぱり不安と負担の2つですね。

 マイナスからのスタートが多いってこと?

加藤 そうです。海外では行政の仕事だという認識で、ボランティアの仕事だと知ったら驚く人ばかり。海外の人たちの感覚では「土のグラウンドは体育館に屋根がないのと同じ」ですから、日本はひどいところで子供たちを遊ばせているんですよ。

 海外の芝生の凄さを知ったのは、日本代表選手としてバイエルンミュンヘンへ行った時でした。ドイツで合宿をした時、天然芝のグラウンドが6面~7面あって、テニスコートも体育館もレストランもあって、当たり前のように芝生が整備されていた。私が日本代表であった90年代初期から、すでにそうだったわけです。日本の環境整備というのは自然の必要性を知っていながら、一方で道路をはじめとしたコンクリートに傾いている。だから、そのギャップをどう埋めていけばいいのか、自分もずっと考えていたんだけど、不安・負担のデメリットばかりに目がいってしまう。芝生のメリットに目をむければ、砂塵が飛ばない、転んでも怪我をしない、子供たちが思い切ってプレーできる。だって、ウサイン・ボルト選手が足が速くなったのは草の上を思いっきり自分の足で走ってきたからですよ。転んだら大怪我するような場所ばかりの環境であったら、当然だけど、あの足の速さは生まれなかったと思う。

―――コンクリートのステージでは世界記録だって生まれないと。

加藤 聞いた話ですけど、ウサイン・ボルト選手が鳥取で北京五輪(2008年)の直前合宿をしていた時、ほとんどの練習を芝生の上でしていたそうです。アンツーカーの上で走る練習は(身体と足に)負担がかかるから数本しかしない。トップ・オブ・トップのアスリートが芝生で練習をしているんですから、日本の環境だって考えていかなきゃいけないと思いますよ。人工芝のグラウンドで育った選手は野球も苦しんでますよね。内野選手でメジャーで大成しない理由のひとつには、綺麗に整備されたグラウンドでのプレーに慣れているからだと思います。

―――芝生の上で育まれる技術が実際にあるわけですから、それもデメリットのひとつだと伝えていければですね。

 今日もヒントをいただきましたね。せっかくの機会だから加藤さんに聞きたいのが、自分も芝生のことで行政に対して申してきたところはある。行政に対して芝生の良さを伝えて、良さを感じていただいて、更なる動きを自分としては期待したいところなんだけど、そこまでまだいっていない。(芝生の)良いことは知ってくれている、でも何とか広めよう!という動きまでいかないんですよ。どうして小田原ができて他のエリアはできないのか。一つひとつ形にしていくしかないのかなって、そういう境地です。

加藤 行政はIT教育を進める費用を使ってますよね。学力をあげることが大事なのは当然です。でも、心と身体の向上も大事。心と身体は何か問題がおきた時にケアするだけ。

 対応するだけなんだよね。リアクションだけ。

加藤 もうとっくに子供の身体はおかしくなっているんです。これ以上おかしくさせないために、どういう環境を作っていけるのか。コロナが極端に広がっていないエリアにこそ、僕はヒントがあると思いますよ。子供たちが遊べる緑がどれだけあるのか、健康に健全に暮らすことができるモデルですよ。校庭の芝生化も流行りの言葉で言えばSDGsになるのかもしれない。いつまでたってもボランティアのままでは駄目だと思うんですよ。何年後かにPTAもボランティアもいなくなって、学校のグラウンドはボコボコのまま。それでは困るわけですから。

 緑を増やす動き、1ヵ所やったからといっても変わらないことですね。

加藤 点では駄目ですね。でも、同じ情熱があって、芝生の活動をされている森先生と繋がって、僕自身もネットワークをつくっていくようになってきました。

 応援していますし、私も動いていきますよ。

加藤 ありがとうございます。小田原市は校庭の芝生化を進める方向で進んでいますし、継続と変化の中で、周辺の市町村も変化していくと思っているんです。ボランティアと行政が手を組んで、一緒になって進めていく事例が派生していってくれることを期待しています。

―――神奈川でいえば東側のエリアでは、形にしていくことも難しいものだと思いますよ。

加藤 そうなんです。全国的にみると神奈川県は芝生化が進まない県だと言われているのですが、行政とボランティアが一緒になって芝生化を進めていくプロジェクトが小田原で立ち上がって、数年後に「何校かできています」となったら、東京から100キロくらいの関東近辺の市町村が、小田原をモデルとして視察に来ると思います。

 小田原だからできたこと。ひとつのモデルであるのは間違いないですし、平塚も小田原に負けじと芝生化を進めていけばいいと思います。私としても学校主導だけでは進んでいかないという実感も現実もあるので、県西地区で芝生化の動きが進んでいることを活用させてほしいと思います。

―――最後になりますが、森さんに期待されていることは?

加藤 森先生は現場を知っている方。芝生のことだって、プレーヤー・ユーザーの目線があって、維持管理側の現場も分かっています。だから森先生には、ずっと芝生の重要性を語り続けていってもらいたいと思います。やっぱり、そこだと思う。

―――旗振り役でいてほしい。芝生のバンディエラですね。

加藤 芝生化を通して、チャレンジしていく子供たちが育っていくことを期待しているんです。スポーツのみならず、日本経済において何度倒れてもいいんだって、ちゃんと子供たちに学ばせていくことっていうのは、方法論として芝生はいいと思っているんですよ。

 自分もよく言っていることだなぁ。一度駄目になったからアウトではなくて、もう一度チャレンジしていくこと。それを容認して認めていく社会になっていくことが大事だと思うよね。今日はパッションを改めて感じた。本当によかった、ありがとうございました。

加藤 森先生だって、現場の人たちの声を実際に聞いて、凄く熱いですよ。こちらこそ、今日はありがとうございました。

 これからも気持ちを同じくして、頑張っていこう。