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【芝生のバンディエラ】

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【サッカー選手から地方政治家へ】

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Talk.01 加藤 智晃氏 P2/4

芝生化に取り組む方との対談企画「芝生のバンディエラ」。
第1回目(全4ページ)のゲストは、神奈川県西地区を中心に活動されている
株式会社G-DESIGNの加藤智晃さん。森正明との対談トーク、ぜひご覧下さい!


「JFAグリーンプロジェクトを活用してスタートした芝生化」


―――加藤さんのご経歴と(下府中小学校の)芝生管理に関わることになった経緯についてお伺いしていきたいのですが……。ディズニーランドのスタッフをされていたそうですね。

加藤 学生の頃のアルバイトです(笑)。工業高校の電気科を卒業して……。

 たしか城北(神奈川県立小田原城北工業高等学校)でしたよね、部活はサッカー?

加藤 城北ではラグビーをやっていたんですよ。ちょうどスクールウォーズが流行っていたこともありましたし、体格も小さかったですから、サッカーは駄目だなって思っていて。スクラムハーフに憧れてラグビーを3年間やっていました。卒業後は電気屋になったんですよ。

 もともと家業だったんですか?

加藤 親戚が電気屋をやっていたので、その関係ではじめました。その後、20代前半に一度フリーターになってディズニーランドのスタッフになったんですけど、そこで嫁さんと出会って電気屋をもう一回はじめました。その後、結婚して、長男坊が小田原市立下府中小学校に入ったんです。その時にね、自分が卒業した小学校に自分の子供が入るっていうのは、感慨深いものがありました。自分が生まれ育った同じ地域の中で子育てができることに感謝と喜びがあって、自分の気持ちを何かしらでカタチにできないかなって、色々と思っていたんです。地域にも学校にも色々な思いがあったものですから。

―――芝生との関わりも、その中のひとつであったと。

加藤 今思えば、子供が小学校でサッカーをはじめたのがきっかけでしたね。たまたま長男が自分も小学校の頃に入っていた地元のサッカークラブに入ったんですよ。最初の頃は仕事が忙しかったのもあって、ある程度の距離感というか、知らないふりをしていました(笑)。

 練習は、この小田原市立下府中小学校でやっていたの?

加藤 そうなんですよ。良い意味で距離をとっていたものの、当時の先輩から「お前も手伝え!」と声をかけていただいて、サッカークラブのお手伝いをするようになったんですよね。事務局からはじまり審判をやったり……だんだん、はまっていきました(笑)。ある時、保護者の懇親会に集まったお父さんたちと話をしていたんです。「神奈川県西地区の芝生のグラウンドって、第一生命の高麗芝のグラウンドぐらいしかなかったけど、今もそう。俺たちがサッカーをやっていた何十年前と子供たちの環境は変わってない。何とかしなきゃいけないね」って。その中には学校の先生もいて、「スクールヤード(学校のグラウンド)が土なんて海外ではありえない、先進国の中で土のグラウンドなんて日本だけだよ」といった話もあったり。

 私もそう思いますけど、そのお話って、どなたが言っていたのですか?

加藤 もう定年退職されてしまったのですが、小田原市内の小学校で教頭先生をやられていた方でした。過去には環境整備の海外視察に行かれたことのある方で、「何かできないかな」という話をしていましたね。そんな話をしていた2006~2007年頃、東京の石原都知事(当時)が東京五輪招致のために校庭の芝生化を推進すると大々的に発信していたんです。公開フォーラムをやるという情報を耳にしたので、興味本位で僕たちも聞きに行ったんですね。そうしたら、東京都の公開フォーラムの中で川渕三郎さん(現:日本トップリーグ連携機構会長)が涙を流しながら校庭の芝生化を含めた東京都の様々な環境整備の話を石原都知事とされていたんです。それに凄く刺激をいただいて、僕らも何かできるんじゃないかなって。それで芝生に興味を持ちはじめたんですよ。

―――実際、何からはじめていくことになったんですか?

加藤 まず2008年にJFAグリーンプロジェクト()がはじまったので、速攻で応募したのですが、スケジュールが全然あわなかったんですよ。2008年4月からのエントリーで、6月までに(芝生を)植えられたらOKというタイムスケジュールだったのですが、学校の了解をスピーディにとれなくて、1年後に再応募する方向で、学校の方とも調整を進めていたんです。

スポーツ施設・空き地・校庭や園庭などの広場を天然芝生化を検討する団体に対し、芝生の苗(ポット苗)を無償提供し、芝生のグラウンドが全国に増えていくことを推進していく日本サッカー協会のプロジェクト

 下府中小学校の校庭を芝生化は、学校側の理解を得て、JFAのグリーンプロジェクトで進めていったの?

加藤 当時の校長先生に了承をいただいて、2009年にいよいよエントリーしたんです。やりはじめた時、地域はひとつの輪になったんですよ。ボランティアの会を立ち上げて、連合自治会長の会長さんにボランティアの方も会長職に就いていただいて。


「芝生化を望む人の気持ちに火を付ける着火剤にはなれる」


―――「ボランティアの会」の目的としては、下府中小学校の校庭緑化があったと。

加藤 そうです。なので、スタートラインは居酒屋の飲み会です(笑)。保護者会の集まりでは、子供たちの試合がどうとか、自分たちの審判が上手いとか下手とか(笑)、雑談を交えながらも芝生の話が出てきた。本音で語り合って団結することができて、新しいことをはじめられたので本当に良かったです。

 それだけ居酒屋の飲み会は大事だってことだね。それにしても、一番リスペクトするのは、いくら自分の子供がいるからといっても、子供が卒業したら学校との関わりは普通なくなっていくもの。それでもOBとして、次世代の子供たちのため、あるいはこれからサッカーをやる子供たちのために頑張っているというその姿がね、リスペクトですよ。

加藤 最初は「ここだけは僕がボランティアで芝生の管理をやらければいけない、自分の子供がお世話になっているから」という意識がありました。でも、やり続けていたら、どこであっても同じ気持ちに変わっていくんですよ。

 大事なところですよ。芝生の成長だけでなく、子供・クラブ・学校の成長、ボランティアを含めて大きくなっていったものがあって、今度は同じようなものを別のところでも作っていこうという気持ちが芽生えていったわけだもの。

加藤 最初は自分が(下府中小学校に)根付かなければいけない。でも、別のところで芝生化をやるとなったら、今後はそこに根付くわけにもいかない。でも、芝生化をしたい人たちの気持ちに火を付ける着火剤にはなれるわけですし、芝生を広める種はしっかりとまいていきたいですよ。

 加藤さんが地域でやっている活動そのものを絶やさないためにも、人やネットワークを介して伝えていくことが、次世代の活動に繋がっていくと思いますよ。私もひとつの事例として広めていきたいですから。

加藤 森先生のおっしゃる通りで、気持ちを受け継いでもらうことも方法なんですよね。僕のような人が各地域で芝生を根付かせていく手法もありますし、一生懸命やっているボランティア団体と繋がっていく手法もありますし、場所によって色々な手法があると思う。現在、JFAグリーンプロジェクトのインストラクターをやらせていただく中で、色々な立場の方々と触れ合う機会をいただいています。ボランティアの方々、幼稚園の先生、私学の先生、行政や教育委員会の方々など、皆さん各々の立場で芝生化に関して求めているものが違いますから、約10年で積み上げてきた経験の中から、ケースバイケースのアドバイスが少しずつ出来るようになってきたかなと思います。

 加藤さんも同じ理由だと思うんですけど、私が政治家になってからずっと芝生化を推進している理由は(芝生で子供たちが走っている様をみながら)この光景が全てなんですよ。子供たちがグラウンドで思いっきり走ったり、転んだり、そういう姿が引き出せる環境なんです。はじめは「サッカーに携わってきたからだろう」と言われていましたけど、本質はまったく違う理由なんですよ。IT化やデジタル化が進めば進むほど、外で思いっきり遊べる環境が果たす役割は年々大きくなっていると思います。身体を動かすことは生きる基本なわけですし、健康でなければ多種多様な学びも受けられないわけですから。

加藤 今では学校の子供たちや地域のスポーツクラブだけが利用する場所じゃなくなっています。学校を芝生にしてからグラウンドゴルフの会が立ち上がって、毎週末やっています。地域の方たちが、マイボールとマイクラブを持って(笑)。もうこのあたりでは日常の光景。小田原の中では、普及しているエリアが2ヶ所あるんです。ひとつがこの小学校で、もうひとつは河川敷に隣接する芝生のグラウンド。他でもやってはいるのですが、人が増えていかないんですよね。その理由は、土のグラウンドだからです。熱さもあるし、単純に土でやっても面白くはない。だから、芝生だから楽しめること、広がっていくことっていうのは、たくさんあると思いますよ。

―――(取材時に学校の芝生で子供たちが走っている様をみながら)これが日常の光景というのは、誰が見ても良い環境だと思いますよね。

加藤 昼休みは特にみてほしいです。コロナ禍において、子供たちは、ある程度の距離を取りながら、遊びとして色々な鬼ごっこを芝生のグラウンドではじめたんです。もうグラウンドの隅から隅まで、子供たちが走り回っているんですよ。それが出来ているのって、芝生だからですよ。コロナ禍において、先生方も色々と考えている中で、芝生のグラウンドがあったからこそ、みられる光景だと思うんですね。転ぶことに抵抗感がない芝生の上だから、楽しそうに走り回っている。子供たちは転びまくってますけど、怪我もない。転んでも怖くない。それは絶対に、子供たちの心の変化にも良い影響を与えていると僕は思いますね。

―――これなら放課後も子供たちは学校で遊んでいくのかな、と思いますけれども。

加藤 ですね。学童の子供たちは遊んだりしていますよ。本当は放課後に集まって子供たちに遊んでほしいですけど、実際は習い事が多くてそういうわけでもない。

 芝生が担っている役割は、単に土から芝生になったという、誰がみても分かる価値だけではないですよ。地域の方々にも子供たちにも学校の関係者の方にも、芝生への愛着が生まれていると思いますから。