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【芝生のバンディエラ】

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【サッカー選手から地方政治家へ】

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Talk.01 加藤 智晃氏 P3/4

芝生化に取り組む方との対談企画「芝生のバンディエラ」。
第1回目(全4ページ)のゲストは、神奈川県西地区を中心に活動されている
株式会社G-DESIGNの加藤智晃さん。森正明との対談トーク、ぜひご覧下さい!


「ボランティア主導、地域主導で進められた校庭の芝生化」


―――小田原市立下府中小学校の校庭芝生化がどのように進められていったのか、伺っていければと思うのですが、まずはどこから着手していったのですか?

加藤 当初はボランティアの方々を中心に「週末だけお手入れしましょう」というスケジュールを作って、年間予定表とかも作ってやっていたんですよ。

 それは完全ボランティアということで?

加藤 そうですね。「学校側はタッチしません」というのがベースでした。

―――スタートしたのは2008年、小田原では他の小学校・幼稚園でも芝生化が進められたとお聞きしていますが。

加藤 小田原の小学校では、3ヵ所同時にやったんです。この小田原市立下府中小学校はボランティア主導、いわゆる地域主導ですね。一方、小田原市立新玉小学校は学校主導です。校長先生が実行すると決めて進めていった。もうひとつの小田原市立東富水幼稚園は、教育委員会主導で進めることになりました。同時期にスタートして2年目を迎えたところ、この小田原市立下府中小学校だけが継続できる状態でした。はっきり言ってしまえば他の2つは、うまくいかなかった事例ですよ。継続できない理由は、やはり負担の部分。

ただ、幼稚園の方は、僕の子供がお世話になったところでしたから、園長先生にお話を聞いてみたんです。そうしたら、教育委員会が継続体制をつくれずに継続できないということでしたから、私の方から「2年目は私もお手伝いをします、何とかします」とお話させていただいて、継続する方向に進んで、2年目もポット苗を植えてもらったんです。その時は「走るところだけは芝生にしたくはありません」とか色々な条件を付けられたものの、気がついたら、その年の8月にはグラウンドがビシッと緑一面の芝生になりました。その景色をみた園長先生も、芝生化に対するスイッチが入ってくれたみたいで、園の予算や保護者会の予算でスプリンクラー導入を進めていただいた。維持管理が楽になりますから、導入できてよかったです。

 おそらく30万くらいですよね? 幼稚園側も管理の大切さと苦労が分かっているからこそ、スプリンクラーの導入に至ったと思いますから、1年目の苦労も無駄ではなかったと思いますよ。実際、私自身が推進してリニューアルオープンした神奈川県立スポーツセンターでも、スプリンクラーの導入が予定されてませんでした。関連する建物を含めて約300億をかけているのに、天然芝のグラウンドにスプリンクラーを入れていなかった。「芝生のグラウンド整備で大事なのは太陽と水と芝刈りです。スプリンクラー導入は初期投資で絶対にやらなければ、とんでもないことになります」と、何度もお伝えした。建設初期の視察段階でも導入されてませんでしたから、まだまだ現場のことが理解されていない。導入はマストだと思いますから、検討委員会の方で進めてもらいました。

加藤 長期的にみれば維持管理の負担減はコスト減でもありますからね、おっしゃる通りです。

―――今回の事例は、いわゆるモデルケースになったというわけですね。

加藤 そういうことですね。(東富水幼稚園の)芝生化のサポートがきかっけとなって、小田原市の教育委員会ともやり取りが出来るようになりました。「成功させていくためには必ず散水設備(スプリンクラー)が必要です」とお伝えする中で、導入事例をひとつ作ることができましたから本当に良かったですよ。今、小田原市内では公立の幼稚園が6園あります。残念ながら1園は廃園がほぼ決まってしまっている幼稚園ですが、他の5園は2017年に芝生化がすべて終わっているんです。

 聞いてはいましたけど凄い決断だなぁ。それは市政が中心で推し進めていったのですか?

加藤 市長をはじめ市政のご理解もあったとは思いますが、活用させていただいたのは小田原市の助成金です。これは市民活動助成金というもので、「行政と一緒にやっていきます」というプレゼンをして進めていくことになりました。約30万くらいの費用をもらって維持管理はボランティアで行政は必要な設備投資を用意してと、マッチングもうまいことできた。簡単に言えば『ボランティア団体と行政との共同事業で進めていった』ということですね。

 公はやったけど、民はやっていないの?

加藤 やってないです。珍しいパターンだと思いますね。

 そうだと思います、貴重な事例ですよ。ここの小学校の芝生でいえば、もうずっと関わられているのですか?

加藤 継続できているのも、PTAの活動があったからというのも現実的には理由のひとつかなと思います。この約10年間で、自分は小学校のPTA副会長を9年間やって、最後の1年だけ会長をやりました。PTAをはじめたのも、芝生化した時に反対をしたのがPTAだったんです。


「スタートさせるまでが一苦労だった小学校の校庭緑化」


―――「芝生化はNOだ」と言われたと。

加藤 大反対されました。それこそ森先生が議会の中で芝生化のお話をされた時と同じで「あなたのサッカーチームが芝生化したいだけですよね。PTAは聞いてないから」と。今思えば、スタートボタンの掛け違いってやつです。PTAには学校を通して伝えられるという流れだったんですけど、芝生化が決まるか決まらないかという時期が3月で、PTAの役員も入れ替わりの年で、うまく情報伝達ができずに反対の声があがってしまった。3月中旬に芝生化が決定して、その旨を伝える芝生説明会を3月下旬に小学校の家庭科室でやったんです。それこそ自治会・子供会・連合会……地域の様々な活動団体の方々を集めて。小学校の校長先生にもお言葉をいただいて、学校関係者の方々にも参加していただきました。説明会を通してお話をさせていただいた結果、芝生ボランティアの会を作ることになったのですが……。PTAへの伝達がうまくいっておらず、6月のポット苗を植えるまでの期間はPTAの役員会に何度も呼ばれることになって。

 その時は、PTAの役員ではなかったの?

加藤 PTAに関わっていませんでした。その時は芝生に関することも素人の状態ですから、何にも言えないわけですよ。「グラウンドにガラスをまかれたらどうするんだ。グラウンドにアリが大量発生したらどうするんだ。芝生アレルギーがあるんじゃないですか」とか、本当に色々なことを言われました。

 いわゆるネガティブな話をたくさん言われたと……。それは難しい状況でしたね。何とか芝生の良さを伝えたくても、経験値が自分にないから立証もできないし。

加藤 はい。それに、そもそも予算的にも厳しいわけです。予算は10万円。自動芝刈り機もスプリンクラーもない状況の中、それでも地域の方々が協力してくれるようになっていったんです。嬉しかったのは、(小田原市内の大型ショッピングモール)ダイナシティさんからのご厚意で、芝刈り機と肥料散布機を提供していただきました。また、散水もスタンド式の取り出し口だけは小田原市が用意してくれることになった。おそらく150万くらいはかかると思いますから、本当にありがたかったですね。何とかこらえて、スタートまでもっていくことができました。

 PTAは最終的に納得したのですか?

加藤 いえ、どうしようか考えていたところ、女性の先輩がPTAに入ってくれたんです。「一緒に入ってやらないと駄目よ」との助言もあって、芝生導入をきっかけに僕も(PTAに入って)10年やりましたね。

―――今現在は、この小学校の芝生に、どういった立ち位置で関わられているのですか?

加藤 僕も仕事がありますから、週末で時間のある時に芝刈りをしたり、水や肥料をまいたりですね。まずは校庭を使う側を優先しています。最近ではグラウンドゴルフの人たちが楽しんでいますけど、嬉しいことに「もっと芝生が短くならないか?」といったリクエストも増えてきましたよ(笑)。

 使用料はとっていないのですか?

加藤 とってないです。コロナ禍になって、芝生の状態は良いのですが、子供たちの利用が少なくなってしまいましたから。

―――校庭芝生化の課題をお二人にお伺いしたいのですが、まず小学校への導入課題について森さんいかがですか?

 スタートするまでがとっても難しいと感じますね。やはり小学校に関わる人たちにどう応援してもらうか、加藤さんがお話されたことに尽きるのかなと。というのも、ゼロからではなく、マイナスからのスタートが多いと思うんですよ。加藤さんは本当に努力されてきたなぁと、お話を聞いて思いますよね。芝生のことを理解してくれる行政・学校関係者は本当に少ないです。政治家になったばかりの頃は、理解していただくことに特に苦労しました。芝生が出来上がった光景をみれば喜びの声も聞けますけど、導入前はどんなに映像や画像をみせても、実体験として学校側もないわけですから、学校や保護者、行政関係各所・地域住民の理解を同時に進めていくというのは、かなりの苦労であったと思いますよ。私自身もPTAの会長をやっていましたし、学校の財政状況もよく知っていますから、協力なしでは進めていけません。公立小学校の芝生化は、市町村単位で動くことで、県が管轄していない部分だからこそ難しさを感じます。

―――そこが県立高校との違いでもあると。森さんは高校での芝生化導入を後押ししてやられてきているわけですが、小学校と高校の違いは他にもありますでしょうか?

 県立高校の場合は、議会を通して県の方にずっと伝えてきましたから、県の関係者の方も芝生の良さを分かってくれています。また、私自身の活動、例えば2002年日韓ワールドカップ関連や神奈川県サッカー協会の活動を通して、県の関係者も芝生の良さを知ってくれています。じゃあ、もっと導入できるじゃないか、そう思われる方もいると思うんですが、財政関係で何を優先するのか、そこなんですよ。今、教育関係で県がお金を一番費やしているのは先生たちの人件費で、2番目が耐震化や老朽化にともなうハード(施設・校舎・体育館など)の整備費。私の考えでは、芝生化もハードに近い領域だと思っていますから、環境整備費として導入を後押しするのですけど、優先順位としてはトップ3以下の状況ですから、導入が進んでもスケールが小さいものになってしまう。「芝生は一部だけ」といった考え方もそう。ただ、芝生というのは使ってくれる人があって成り立つものですよね。芝生を使う子供たちの心の成長や感受性を育むことは計算できませんから、数字だけで優先順位を考えては駄目だと思っています。「学校=遊ぶ場所」になることは、とても大事なことだと思いますよ。

―――学校主導か地域主導の違いと言いますか。

 ですね。地域が動いて進んだ芝生化との違いですね。学校主導といっても芝生のことをよく分かっていない主導です。県立高校の芝生化はずっと言い続けてきて、ようやく動いたかと思いましたけど、一部だけやるというのは、みせかけの芝生だと思いますよ。使ってくれる子供の成長を想像できていないわけですから。横浜の1校だけが全面芝生で進めたのですが、それも芝生の良さ、スプリンクラーの必要性なども導入前から理解してくれていたから動いていった。導入前に学校側がどれだけのことを理解して、想像してくれているのか、そこも大きいと思います。

加藤 おっしゃる通りだと思いますし、森先生が推し進めているところは当然大切で、僕たちができないところ。できる限り続けていただきたいです。でも、喜ばしいニュースもあるんですよ。2021年に横須賀の工業高校(神奈川県立横須賀工業高等学校)がJFAグリーンプロジェクトのサポートを受け、サッカーグラウンドを整備します。これは県が進めてきたやり方とは違って、JFAのサポートを受けて進めていくというやり方。もう一つモデルができるというのは、大きいんじゃないですか?

 大きいですよ、素晴らしい動きです。ある意味、その動きを待っていた部分でもあります。政治だけで解決できることばかりじゃないですし、学校と外部団体が共に動いていくことでオリジナリティも生まれると思います。あらゆるところでの動きが、点から大きな面になっていく、そんなことを願っています。